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年輩の社員たちが私の言うことを聞き入れてくれません

昨年父が亡くなり、創業して60年余りになる中小企業の3代目として社長を継ぎました。大学卒業後しばらくは、同業の大手に勤務し、5年前に今の会社に入りました。売り上げが年々下がっているため、様々な見直しを進めてゆかなければならないのですが、何か新しいことをやろうとすると、父の右腕だった部長をはじめ、年輩の社員たちがすぐに異を唱え、私の言うことは聞き入れてもらえません。そんな状態に怒りとストレスを感じています。

31歳男性・会社経営

自分と相手との考え方や前提の違い(3つの「ち」)を理解し、「建前」でも「本音」でもなく、表面的な意識を超えた「本心」で関わること

高橋佳子先生
『いま一番解決したいこと』より一部抜粋・要約

会社に入ってから、わずか4年、30歳という若さで、突然父親の後継者として、社長になられたとのこと。その条件だけでも、あなたが苦しい立場に置かれざるを得ないことが推察されます。しかも、会社の経営状態が思わしくなく、改革をしようとしても、年輩の社員たちには協力してもらえない……。経験したことのない試練の壁を前にして、あなたがストレスを感じてしまうのも無理のないことだと思います。


ここで、確かめておきたいことは、同じような試練の中にある社長はあなただけではないということです。なぜなら、あなたが今直面している困難な状況は、ただ単にあなたの社長としての力量や社員の人間性の問題によるものとは言えないもので、子どもが親の後を継いだり、妻が夫の後を継いで社長に就任するような、リーダーの転換という事態において、必ずと言ってよいほど起こる、半ば構造的な問題であると言えるからです。
ですから、こうした軋轢(あつれき)の中で、1人前の社長として早く認められるようにと、新事業を立ち上げるなど、自分の力量をただ示そうと焦るのは禁物であり、またその必要もありません。



今、あなたが直面している試練を理解する鍵は「3つの『ち』」にあります。 3つの「ち」とは「血」「地」「知」のことで、「血」とは両親から流れ込む肉体的な条件や、ものの見方・考え方、人間観・世界観などを言い、「地」は生まれ育った土地の風土や慣習、会社や業界の風土など。そして「知」は時代や社会から流れ込む、教育や知識、価値観などを指します。 そのまなざしで見れば、経営者を父親に持って育ったあなたの3つの「ち」と、先代の社長の下でサラリーマンとして歩んできた社員の「ち」とは、かなり違っています。


まず、この3つの「ち」の違いが様々な軋轢を生じさせているという現実に目を開き、自分とは違う3つの「ち」をよく理解してゆこうと心を定めることが大切です。


3つの「ち」が衝突し合う場では、どちらが正しいかを論じても決着がつかない一方、どちらも自分を守ることに重心があるため、人は、本当の意味で理解し、協力し合うことは難しくなります。そこで往々にして、「建前」と「本音」の使い分けということが起こります。


特に2代目以降の方は、自分が社長になるのは幼い頃からの既定路線だったという方や、周囲の要請に押され、自らの意志に反して継いだという方が少なくありません。つまり、社長就任に至った経緯を一度横に置いて、現在社長を担っている者として、改めて社長業に向けての本心、社長としての使命を原点から自分に問うてみたという方は意外と少ないということではないでしょうか。それが創業者ではない経営者の方が背負っている「ち」の1つです。社長のはたらきを通じて何を果たしたいのか、どう社会の役に立ちたいのか、社員の人生と営みをどのようにして差し上げたいのか――。正論的な建前でも露悪的な本音でもなく、改めてそう自らの本心を問うてみることこそ、今の試練があなたに呼びかけていることだと思うのです。

様々な問題や意見の対立があったときに、その原因を相手に見て責めるのではなく、まずは「あなたと私は同じ側に立って協力し合う同志である」という意識を持つことです。自他の本心を信じ、共に3つの「ち」を超えてゆこうとする心構えを持ち、「ぜひこの問題、対立を解決してゆきたい。私も変わるので、あなたもよろしくお願いします」という姿勢で相手と出会うのです。

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