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「天職」ってあるんでしょうか?

私は現在、とある会社でシステムエンジニアとして働いています。入社から20余年、中間管理職の役割に就いて、日々それなりに忙しくしています。特に不満があるわけではありませんが、もともと望んで入った会社ではなく、就職氷河期の頃に何とか採用してもらって入社した会社です。ですから最近、「このままこの仕事を定年退職まで続けていいんだろうか……」と思うときがあります。自分にとっての「天職」が見つかればとも思いますが、一体、「天職」なんてどうやって見つけたらいいのか、皆目見当もつきません。

45歳男性・会社員

編集部より
ご相談、ありがとうございます。日々の仕事の日常の中で、ふとしたときに、これまでのご自身の仕事や人生を振り返り、これからについて想いを巡らせる――。そうしたことは、人生をより深く生きるための大切な営みであり、相談者の方が本当に願われている生き方を進めてゆくための大切な機会だと思います。
高橋佳子先生は、著書の中で、「天職」について書かれています。著書の中から、ご相談に関連する箇所を一部抜き出してご紹介いたします。

本当の天職は職業だけではない

高橋佳子先生
『人生で一番知りたかったこと』より一部抜粋・要約

自分自身の職業、仕事について、悩みを持っている人は少なくありません。仕事を続けるかどうか迷っている人、引退を考えている人、転職を考えている人、初めての就職の準備をしている人……。単純に考えても、学業を終え就職してから、定年を迎え、引退するまでおよそ40年の時があります。その膨大な時間を私たちは、仕事に費やすことになります。

その仕事にあなたは何を求めているでしょうか。

今あなたが若く、これから自分の仕事を決めようとしているなら、その選択は、大きな岐路・人生の選択を意味しているように思えるでしょう。ところが、実際には、選択というほど熟慮することもなく、成りゆきのような形で仕事を決めてしまうということも少なくないのが実情です。

あるいは、転職を考えているなら、リスクを抱える選択に迷いを隠せないかもしれません。しかし、損得を抜きにして本当にやりたいことのために今の仕事を辞めるという場合を除いて、そのときの選択の基準の多くは待遇と収入にとどまっているのではないでしょうか。それは、昨今の風潮も手伝って年々増えている傾向でしょう。

しかし、私たち自身の人生と仕事の関係をそのように単純化してしまうことに、私は懸念を感じます。これほど多大なエネルギーを注ぐものに対して、収入を得るだけの手段という見方はあまりに浅薄(せんぱく)です。私たちの心の声と結びつき、人生に呼びかけられる必然として、自分自身の仕事のことを考えていただきたいと思います。仕事とは、生活の糧を得てゆく以上のものであるという見方がもっと必要なのではないでしょうか。

「天職」――。ですから、この言葉を心に置いていただきたいのです。自らの内心と結びつき、人生に呼びかけられた究極の仕事とは、天職のことでしょう。天職とは、天から命ぜられた職であり、その人の天性に合った職業という意味です。

たとえば、神学の研究者として、優れたオルガン奏者として、確立した職業を持ちながら、それを投げ出して、内なる声に従って医学を学び直し、アフリカで医療の普及に尽くしたシュヴァイツァー(1875〜1965)。事業家として出発しながら、戦場での悲惨さに心を動かされ、事業のことを忘れて傷病兵(しょうびょうへい)を敵味方なく助け始めてしまい、国際赤十字社を興したアンリ・デュナン。これらの人たちはまさに天職と巡り合ったと言えるでしょう。

私たちが自らの職業において、求める最高のものがあるとすれば、それがこの天職であることは言うまでもありません。つまり、天職を求めて、自分の仕事のことをぜひ考えていただきたいのです。


現在の仕事が自分の天職だと思える人は、それだけで大きな幸せを手にしていると言えるかもしれません。けれどもそのような人たちは、決して多くはないと思います。そればかりか、生活のために、仕方なく今の仕事をしているという人も少なくないのではないでしょうか。……

自分の仕事に誇りを持てない。大きな意味を見出せない。とても、天職だとは思えないという人の方が、むしろ大多数でしょう。そして多くの方がもともと、天職など、自分には縁のないことだと思われているのではないでしょうか。

しかし、天職とは、職業だけではないのではないでしょうか。自分の職には輝きを感じないが、ボランティアには生きがいを見出している。仕事にはあまり希望が持てないが、サークル活動には熱意を注げる。仕事の内容には大きな意味を見出せないが、職場で関わる人たちは大切にしたい。職業には就いていないが、家庭の主婦として家族のことに心を尽くしてきた……。そのような人たちにとっても、「天職」は存在していると私は思うのです。まさに天職への鍵は、それぞれの「ボランティアのはたらき」「サークル活動」「職場での人間関係」「家庭の調和」――にあるのではないでしょうか。

人生をかける仕事――。誰もがそれを見出せると私は信じます。見出していただかなければならないと思います。

それは、職業ではなくても、あなたが実質的に人生の時を費やしてきたこと、そしてこれから費やそうとしていることに秘められています。それは、あなたの心の奥に疼(うず)いていた願いを明らかにする、人生が与える魂の仕事なのです。

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