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なかなか試験に合格しないのですが、来年も受験を続けていいのでしょうか?

落ちこぼれだった私を励まし続けてくれた中学時代の恩師に憧れ、教職を夢見るようになりました。しかしその願いとは裏腹に、3度目の教員採用試験にも失敗。「私は何をやってもダメ」と落ち込んでいます。友人が次々に合格する中、私1人だけが暗いトンネルの中をトボトボと歩いているような気分です。今はアルバイトをしながら受験勉強をしているのですが、このまま来年も受験を続けていいものか迷っています。

25歳女性・アルバイト

失敗の原因を掴むことから始めましょう

高橋佳子先生
『いま一番解決したいこと』より一部抜粋・要約

教職の志願仲間が次々と合格してゆく中で、自分だけが取り残されてゆく……。あなたは今、立ちふさがっている現実の壁を前に、立ち往生していると言えるかもしれません。

3度挑戦して合格しなければ、不安になったり、孤独になったりするのも無理のないことでしょう。普通なら可能性はないと判断してあきらめてしまっても不思議はありません。このまま来年も受験を続けていいのだろうかと、迷いの気持ちが出てくることも当然です。むしろ、普通ならあきらめるケースであることを前提に、このことに真摯に向かい合ってみることにしてはどうかと思うのです。

受験の現状は3度の不合格とのことですが、それはあなたが自分の限界まで努力した結果だったのでしょうか。それとも、そこまでは努力してはいないのでしょうか。これ以上できないというくらい努力してその結果であるなら、あきらめても後悔は残らないかもしれません。しかし、そうではないとしたら、悔いが残るでしょう。全力を尽くすところまで挑戦してみることも、あなたにとって大切な選択であるように思います。

もちろん、だからと言って、ただ闇雲にこれまでと同じように勉強を続けても、合格という結果を期待することはできません。

恩師に憧れて教師になりたいという夢を抱いたことが、あなたにとって大切であるほど、 これまでの3度の失敗について、よく振り返らなければならないと思います。その失敗が 無駄にならないように、失敗の「原因」をはっきりと掴むことから始めることではないでしょうか。失敗を繰り返すには繰り返すだけの原因が必ずあり、その原因を掴んでそれを取り除かない限り、同じ失敗をまた繰り返すことになるからです。

受験の失敗という「結果」を生んだ「原因」を正しく把握して取り除くために、自らの内なる想いと外なる現実の両面の点検が第一に必要だと思います。


まず、内なる想いに目を向けてみましょう。受験に向かうにあたってのあなたの想いはどうでしたか。3度の受験に共通して繰り返してきた心の轍(わだち)や想い方の癖はなかったでしょうか。

「どうせ自分なんて……」「いくら頑張っても、合格するはずはない」「どうしたらいいんだろう」

そんな悲観的な心の「つぶやき」が心を支配し、思いっきり勉強に打ち込むというより、 逡巡(しゅんじゅん)や不安に支配されて、いたずらに時間だけが過ぎていったということはなかったでしょうか。また、かつて落ちこぼれだったとおっしゃっていることからも、もっと以前から同じような「つぶやき」が心を占めるという想い方の癖があったかもしれませんね。

それとも、逆に楽観的に「まだまだ時間がある」「何とかなるだろう」という猶予感覚の「つぶやき」を繰り返していることも考えられます。なかなか本気になれない、受験に対する切実感が持てず、勉強に集中できないといった傾向です。

いずれにしても、そうした「つぶやき」が受験に集中して向かうことを妨げる心の轍であることは確かです。自分の中にどのような想い方の癖があるかをあるがままに見つめ、これらの「つぶやき」を転換することが、受験に向かう姿勢を変革してゆくきっかけとなるでしょう。

たとえば、あなたが悲観的な「つぶやき」で心がいっぱいになったときには「やるだけやってみよう」と「つぶやき」を転換し、懸命に取り組もうとする心を喚起し続けてみてください。

楽観的な「つぶやき」が心を占めて、切実感が希薄になっているときには自分の願いに立ち還る時間を持ち、1日1日が大切なその願いへの一里塚であることを想起するという新しいライフスタイルによって切実感を取り戻すことができるでしょう。


「想い」の点検と同時に、「現状」の点検もしてみましょう。

現状の点検としてはまず、試験についての現実的な把握、自分の実力をあるがままに知ることが考えられます。教員試験に詳しい方に相談してもよいでしょうし、その方法はいろいろあるはずです。受験勉強の基本ですから言うまでもありませんが、自分の学力の長所と弱点については理解されていますか。何が得意科目で何が不得意な科目か、それぞれがどの程度の水準なのか、不足分を補うにはどれほどの学習が必要なのか、そしてその他鍛錬しなければならないことはないのか……等々。

現状が正しく把握できれば、1年の間にどのようなステップでその長所を伸ばし、弱点を克服してゆけばよいのかも見通せるでしょう。具体的なスケジュールも立てることができます。

また、この受験の期間、ぜひ勉強のことや気持ちの悩みなど、心を開いて相談できる方を見つけましょう。トボトボと1人でトンネルの中を歩いているような孤独を感じているということですが、それは本当でしょうか。自分が孤独だと思い込んでいても、実はあなたが求めるなら、応えてくださる友人や先輩がいらっしゃるのではないでしょうか。

目標に向かって歩む道のりには、プレッシャーはつきものです。そして、そのプレッシャーは最終的には当事者であるあなた以外には背負うことができないものです。ですから、孤独な時間も強いられます。けれども、そのようなときだからこそ、何かあれば相談できる方がいるということは、精神的な安定という意味でも重要な支えになると思います。その方に依存し切ってしまうのも違いますが……。

受験勉強に取り組んでいる環境の点検、勉強の時間帯・時間数の点検、参考書や問題集の点検、スケジュールの点検……等々、次なる受験に向かうに際して改めて点検し、準備すべきことは他にもたくさんあると思います。その1つ1つについてこれまで本当に適切であったかどうか点検し、改善すべきは改善して、受験に向かうことではないでしょうか。


私が出会った青年の中に、あなた以上に幾度も不合格を繰り返し、昨年やっと念願叶って、教員試験に合格した女性がいました。

彼女は、3人兄弟の末娘として生まれ、ご両親や祖父母、兄たちからかわいがられて育ったという人生の背景がありました。教師になりたいという願いは抱いていたのですが、大学を卒業した頃には、心がいわば「もやし」のような頼りない状態で、「どうせ自分はできない」という卑屈な気持ちと「やがて何とかなるだろう」という猶予感覚に呑(の)まれていた状態でした。

卑屈な気持ちと猶予感覚の心のダッチロールを起こしていた彼女に、あるときこう伝えたことがあります。「どんなことも1回は1回。この1回にどれだけ賭けられるかが重要ですよ」と。彼女は、その言葉をきっかけに「今度こそ自分を変えたい」と一念発起し、次回を最後の挑戦と心に定めて、新たな気持ちで試験勉強に取り組み始めたのです。

そして、これまで自分は試験合格という結果にこだわり過ぎていたということに気づき、 テーマを「試験合格」から、国家試験を通しての「自己変革」へと定め直したのでした。それは彼女にとって、決定的な転換点となりました。まるで砂嵐のように心を覆っていた不安や焦りが消え、とても心は穏やかになり、1つ1つ具体的に試験の準備を進めることができたと言います。

また、卑屈になりがちな自分の心を脱してゆくためにと、鮮烈な志を持って生きた先達の歩みを記した著書(小著『明智の源流へ』)を朗読する時間を日課に組み込みました。それは、心を立て直し、彼女自身の原点となる志を喚起する取り組みでもありました。

さらには、その志を具体的に果たしてゆくために、各試験科目に即して、もう1度願いを確認し、想いの点検、現状の点検を行い、その想いと現実を変革してゆくということに誠実に取り組んでいったのです。それは願いを具現するためのメソッド(方法)として開発された「ウイズダム」に取り組んでゆく道のりでした。その取り組みによって、心と現実を相対化したり整理することができて、事態を変革してゆくことができたのです。

同時に、「耳の痛いことを言ってくれる人こそ大切な同志」と、家族や先に合格した友人からも協力を得、受験環境も整えてゆきました。

そして、「やるだけやった。悔いはない」との気持ちで臨んだ試験では、ついに合格の報を手にしました。

「不合格が続いた間、私は、『こんな自分、誰にも必要とされていない』と思ってきました。しかし今は、『失敗の多い私だったけれど、でもこの自分にもできることがある』と思えるようになりました」と、彼女は語っています。そして、「こんな自分でも信じ、愛されることによって、願いを叶えることができたように、今度は私が子どもたちを信じ、愛する側に回り、生徒1人ひとりの可能性を信じて、子どもたちが本当の願いに生きることができる善い『縁』(えん)になりたい」と、新たな人生を歩み始めています。

あなたは受験生である前に、何よりも1人の人間です。1人の人間として、この試験という挑戦を通して、あなた自身はどのように成長してゆきたいと願われますか。また、これまで越えられなかったテーマをどのように乗り越えてゆきたいと思われますか。

自己の成長への挑戦は終わりなき挑戦です。試験に受かっても受からなくてもその挑戦は生涯続きます。受験の向こうにも続くその終わりなき挑戦をも見据えた上で、試験までの限られた期間に、まずは、懸命に全力を尽くされることをお勧めしたいと思います。

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