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どうしても子どもができなくてつらくて……

結婚して10数年になりますが、10年近く不妊治療を受けてきました。人工授精(AIH)、 体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)と全部試してみましたが、駄目でした。数々の検査、かさむ治療費、たびたびの病院通いと治療、人には言えない悩みやストレス……。 ついに私も夫も疲れ果て、もうこれ以上治療を続けるのは限界と、今は何もしていません。 代理母出産や養子縁組を考えたこともありましたが、そこまで踏み切ることもできません。 しかし、半ばあきらめながらも、子ども連れの家族を見かけると、胸が締めつけられ、いたたまれないような想いに駆られます。子どもを産み育てたいのに、そうできないこのつらさ、持っていきどころのないこの寂しさは気晴らしをしても埋めようがなく、どうしたらよいのでしょうか。

39歳女性・主婦

あなたの想いの中に、これからのあなたにとって大切な手がかりがあります

高橋佳子先生
『いま一番解決したいこと』より一部抜粋・要約

長くつらい試練にずっと耐えてこられたのですね。最善の道が必ず1つは開かれていることを信じて、ご一緒に考えてみましょう。

ご存じのこととは思いますが、不妊で悩む夫婦は国内で5.5組に1組と言われています。 人工授精に加えて体外受精や顕微授精で生まれる子どもも増え、現在は年間1万人を超えており、それほど多くの夫婦が抱えている共通の悩みになっているのです。とりわけ女性の側の悩みは深刻で、あなたも「子どもはまだなの?」という他人の何気ない一言にどれほど傷ついてこられたことかと思います。

夫や舅姑がどう思っているのかが気になって、些細な一言で責められているように感じてしまう。また、子どもを産めない自分は妻や嫁として一人前とは思えず、自分に自信が持てない。近所付き合いも、同じ年頃の子どもを持っている母親同士でグループができているため、その中に入ってゆくこともできないでいる。空いた時間を趣味や買い物に費やしても、心の空洞や虚しさは埋まらない。街で仲の良さそうな親子連れを見かけると、何ともうらやましく、いたたまれない気持ちになる……。

あなたは、これまでにもう十分過ぎるほど苦しんでこられたのではないでしょうか。自分自身を責めてもこられたでしょう。ですからこれ以上、自分を責め苛(さいな)むことはしないでいただきたいのです。なぜあなたがここまで苦しんでこられたのか、その苦しみの中で、なぜあなたがそこまで「子どもが欲しい」「子どもを産み育てたい」と思われるのか、そこにはこれからのあなたの生き方にとって大切な手がかりがあると思えるのです。


思い通りの人生を送れるわけではないことを、多くの人はわかっています。望みが高ければ高いほど、それが叶うことは難しくなってゆくことも承知しているでしょう。滅多に叶うことのないことを望んでも、それが叶わないことは仕方のないこと。しかし、よりにもよって、なぜ多くの人に与えられている普通のことが自分には無理なのか――。だからこそ、あなたの苦悩と切なさは一層募るのでしょう。

けれどもあなたは、その寂しさと切なさを噛みしめながら、それでも自分の子どもを得るために、代理母出産や養子縁組までは踏み込めないでいる――。それはなぜなのでしょうか。

そこまでの選択がどうすれば可能になるのか見当がつかないというお気持ちかもしれま せん。あるいはその選択をしたときの周囲の反応を気にされているのかもしれません。でも、あなたの心に一番近いのは、当たり前のことに思えても、子どもを授かることには何か、厳(おごそ)かな巡り合わせがあると感じていらっしゃるのではないでしょうか。もし、そうならば、そのお気持ちは本当に大切なものだと私は思います。

そして厳かな巡り合わせは、「子どもを授かること」だけにあるのではないことを思っていただきたいのです。「子どもを授からないこと」にも同じように厳かなものがあるということです。子どもを授からないこと、そのことにも意味がある――。そう表現することもできるかもしれません。あなたがこれまで悩み苦しんでこられた現実は、単に否定されるべきものとしてあるのではないということではないでしょうか。


改めて考えていただきたいのです。あなたはなぜ、それほどまでに「子どもが欲しい」 と願われたのでしょうか。そこには、「愛する」対象を求めているあなたがあるように感じます。

自分の愛にすべてを託して身を任せる存在があることのかけがえのなさ、本当に愛を注ぎたいという想いが、あなたをそこまで思い詰めさせたのではないかと私には思えるのです。

これまで子どもを授かることがなかったあなたの中に疼(うず)く強い「愛」への想い――。それなのに子どもを授からないのはなぜなのか――。何度も問いかけてきたことだと思いますが、その問いは、単に医学的な説明によって解消されるものではありません。なぜこの事態を背負い、引き受けることになったのか、なぜほかの誰でもない「私」でなければならなかったのか、その意味と必然を尋ねる問いです。

私がお会いした、長年不妊で悩んでいらっしゃったあるご婦人は、ボランティア活動を きっかけに、多くの方々をお世話することの喜びに目覚められました。そして、今では、 「多くの人々を育み、愛し、支えたい。皆さんのお母さんのような存在になりたい」という願いを抱かれ、毎日をいきいきと生活していらっしゃいます。ボランティア仲間からも大変慕われ、様々な相談が持ち込まれています。そして、「もし私に子どもができていたら、 私は自分の子どものことだけで精いっぱいになっていたかもしれません。少なくとも今の自分はなかったと思います」と、しみじみと語っていらっしゃいます。

あなたの中にある「育み、愛したい」という願い――。それを少しずつ、今、出会っている家族や友人・知人との関わりの中で自覚的に生きることから始めてみませんか。そのとき、きっとあなたの中に、なぜこれほどまでに苦しんできたのか、あなたの人生にとっての意味と必然が見えてくるのではないかと思います。

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