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大きな挫折をしてしまい、立ち上がることができません

会社を立ち上げたのは、20代後半の頃でした。Webデザインと広告を手がける会社で、最初は自分と友人数名で立ち上げた小さな会社でしたが、有名飲食チェーンなどの広告を手がけるようになり、会社は急成長――。
ところが、数年前に取引先大手が業態を縮小し、売り上げが激減。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、ついにこの春に会社は倒産することになりました。
この数年、現実のつらさを忘れるために、浴びるように酒を飲む毎日でした。そんな私を嫌ってか、妻と子どもは家を出てゆき、1年以上別居が続いています。もう生きる目的を見失ってしまい、立ち上がることができません。

51歳男性・経営者

編集部より
ご相談、ありがとうございます。おそらく相談者の方は、ご自身の会社を成長・発展させるために、長年継続して尽力してこられたのだろうと察します。その会社が、急成長の状態から一転して倒産。さらに、ご家庭も不和となり、別居状態の生活。とても孤独でつらい日々を送られていることと思います。そんなとき、「もう、立ち上がれない」「俺の人生、終わった」と思われるのも、無理はありません。
高橋佳子先生は、「逆境・失意をどう受けとめるか」ということについても、著書の中で詳しく述べられています。その中から、ご相談に関連すると思われる箇所を一部抜き出してご紹介いたします。



失意をどう受けとめるかが、未来をつくる

高橋佳子先生
『人生で一番知りたかったこと』より一部抜粋・要約

あなたは今、耐え難い痛みを抱えているかもしれません。愛する家族との死別、大切な人との別れ、仕事上の取り返しのつかない失敗、長い間尽くしてきた会社からのリストラ、信じていた友人の裏切り……。これだけはあってほしくないと思ってきた現実が、突然、目の前に現れてしまったという人もあるでしょう。

あなたの心が感じている重荷——暗く先の見えないトンネルが目の前に果てしなく続いている。行く手に重く閉じた扉がのしかかってきてあなたを押し潰そうとしている。すべての道が失われてしまったかのように地面は抉(えぐ)れ損なわれている。あなたの柔らかい心から今も赤い血が流れ続けていて、それをとどめることができないでいる……。

もしあなたがそんな重荷を感じているとしたら、その痛みのことを、今一度誰かに話をするように自分の心に深く語りかけてください。十分にわかっているつもりでも、そのつらさや悲しみを声に出して、あなたの中のもう1人の自分に話しかけてください。あなたの中には、どんな現実をも受けとめてきたもう1人のあなたが本当に存在しているからです。

荒れ狂う海——。嵐になって海面がどんなに時化(しけ)て大波がうねっていたとしても、海底近くは、静かで変わらぬ落ち着きを保っています。その静かな海があなたの中にもあるのです。

大切なことは、この世界に生きる以上、何が起こっても不思議はないと受けとめることではないでしょうか。どんな失望も、損害も、挫折も、危機も、あり得ないとは言えない——。どんなに努力していても、そうした人生の痛みを避けられないことがある——。

そして、私たちは苦しいときに多くを学ぶという事実があります。苦境の中から新しい生き方を見出します。それは、人間の歴史が示す教訓です。私は、これまで様々な分野で活躍される多くの方との出会いに恵まれてきました。その経験が教えることも同じでした。社会の中で、重きをなす方、中心になってはたらくことができる人は、やはり、多く苦しんできた方だと思うのです。

今、痛みを抱え、苦しみの中にある方には、ぜひその事実に目を開いていただきたいのです。


人生を自分の力で切り開いてきたと自負する人ほど、痛みを抱えたとき、それを何とか1人で解決しなければならないと思うものです。誰の手も借りず、誰に助けを求めることもなく、これまでと同じように、それを取り除く——。あなたはそう乗り越えてきたし、これからもそうしなければならず、その痛みに耐えて歩き続けなければならないと考えているはずです。

自分を叱咤し、逆境を克服する。目前の敵と闘い勝利する。それが大切な気構えであることは間違いありません。

しかし、それだけではありません。

前に進むことだけが求められているわけではなく、ときには立ち止まって後ろを振り返ることが必要なこともあります。そして深く見つめることが求められることもあるでしょう。誰かに助けを求めたり、重過ぎるなら一旦荷を置くことも許されます。大変なら少し休んでもよいのです。そして、心を整え、英気を養って、再び立ち上がればよいのです。

困窮する事態の中で、何をどうすればいいのか、迷っている人もあるでしょう。ならばよく心を落ち着けることです。慌てず動転することなく現実を受けとめましょう。この事態が、あなたの未来にとって最善の始まりとなるようにすることが何よりも大切です。

そしてだからこそ、こう考えていただきたいのです。今抱えている事態には新しい明日に向かう「呼びかけ」が響いているのだと。今、訪れている痛みは、それそのものである以上に、何かを呼びかけているということです。新しい生き方を、あるいは新しい始まりを、あるいはこれまでの生き方との訣別を、捨て切れなかった願望の断念を——。


身に迫る圧迫、身を引き裂かれるような迷い、人間が抱えざるを得ない「痛み」とは一体何なのでしょうか。

痛みは、人間を守るものです。身体が傷ついたとき、私たちは痛みを覚えます。生命に危機が生じたとき、耐え難い痛みを感じるようにできています。もし、痛みを感じなければ、人はその危機的な状況を察知することもできず、病を知ることもできないでしょう。そして身体がボロボロになるまで、人はあちこちにぶつかり、身体中に取り返しのつかないほど深い傷を負うことになるでしょう。どんな傷をつくっても痛みがないからです。だから、そのことを顧みることもできません。すなわち、早晩生きることすら難しくなるのです。痛いから避ける。痛いから慎重になる。痛いから重大であることがわかる。つまり、痛みはいのちの一大事を知らせてくれるものです。

精神的な痛みは、私たちの心が安定の状態にないことを教えています。と同時に、私たちが軸にすべきことを見失い、本当に大切にしたいことを大切にできない状態であることを知らせています。もちろん、それは苦しくつらいものですが、その痛みがあるからこそ、私たちは自分自身の本心を探し、守ることを促されるのです。

社会的な痛みは、私たちが人と人の結びつきの中で生きていることを教えてくれます。人々の関わりの中で自分が果たせていないはたらきがあることを問いかけています。

そして、人間にはもう1つ、霊的な痛みがあります。物質的には満たされてもなお満たされない心の空洞や、死によってすべてがなくなることへの恐れ、あるいは目的を見失ったことへの焦りといった形で現れるものです。このような霊的な痛みであれば、それは、その人の根本的な存在意義を思い出すことを問うていることになります。

つまり、痛みを抱えているあなたは、「このままではいけない!」という呼びかけを受けているのです。健康状態について、精神的状態について、社会的状態について、存在の状態について……。その呼びかけの声をできる限り深く耳を傾けて聴いてください。

あなたは、これまで知らなかった新しい生き方を始めるときに来ているのかもしれません。新しいライフスタイル、新しい立場、新しい人との関わりなど、あなたは今何か思い出さなければならないことがあるのです。あなたには何か新しく始めなければならないことがあるのです。

さあ、あなたにどうすることが求められているのでしょうか。じっと、耳を傾けることが今のあなたには何よりも必要なのです。世界はあなたに何かを語りかけているはずです。世界は沈黙するものではありません。ずっとあなたに語りかけていたのです。

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