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時の羅針盤・172

時の羅針盤・172

扉の向こうへ

高橋佳子


扉の向こうへ──「魂の学」が導く生き方

「魂の学」(*1)に学び、親しむことの意義の1つは、現代社会にあって、唯物的な見方に傾いた私たちの生き方を本来のバランスに導くことと言えます。

形があり、色があり、重さがある「現象界」──。人々は、その具体的な世界を生きる中で、見えるもの、形あるものを、大きく優先する感覚を育てざるを得ません。

今日の経済力の優位性は、まさに、現実に及ぼす影響力の大きさによるものです。現代社会においては、お金がなければ、具体的な現実を生み出すことは困難に見舞われます。人が生きてゆくうえで、なくてはならない衣食住を満たすこともかないません。教育を受けるにも、家を建てるにも、起業するにも、もちろん、資金が必要です。

お金だけではないでしょう。「現象界」にあって、多くの人々が認める価値は、具体的な形を持つものです。人を見るにも、学歴や勤務先、役職や収入で、多くの人々がその重要度を測ることもその一例です。

逆に、形にならないもの、数字に結びつかないもの、結果ではないプロセスについては、多くの人はその重要さに気づいていません。人間の内なる資質や性質に重きを置くことができないのです。

物質文明が大きく発展した20世紀以降、その土台となった科学的な世界観は、唯物的な人間観・世界観を強く押し進める力となりました。その結果、人々は、それ以外の、例えば、内なる次元を重んじる生き方に対して、マイナーなものというレッテルを貼ってしまったのです。宗教的な生き方についても、同様です。

しかし、本当にそれでよいのでしょうか。

物質を超える次元の生き方が、今ほど求められているときはありません。そもそも、私たち人間自身は、単に物質的な次元に生きるだけの存在ではありません。見える形や数字だけで、本当の意味で人生を充実させて生きることはできないのです。

宗教的な生き方の本質とは

見えるものだけ、物質的な価値だけが認められる閉じた世界の中で生きている人々に、それを超える次元へ、その扉の向こうへ、1歩を踏み出すことを誘うものこそ、「魂の学」にほかなりません。

では、「魂の学」が導く宗教的な生き方とは、どのようなものなのでしょうか。

「宗教」とは、人間や自然の力を超えた神や仏など、大いなる存在──超越的な存在や次元を基とする思想であり、生き方です。もともと、「宗教」という言葉は、「宗」の教え、すなわち究極の教えや根本の教えを指しています。

「宗教」を意味する英語のreligionは、ラテン語のreligioから生まれた言葉で、religioは、神と人間を再び結びつけるという意味を持っています。

「魂の学」における大いなる存在は、「物質」「生命」「心」「魂」を貫くつながりの総体として受けとめられるべきものです。そのつながりに結びついて、それに応える生き方こそ、「魂の学」が導く宗教的な生き方と言えるものです。

私たち人間の生き方は、それぞれの民族や歴史、文化に大きく依拠したもので、伝統や慣習、その価値観に深く縛られたものです。

「魂の学」が3つの「ち」(血・地・知)(*2)と呼ぶ人生の条件が、いかに人生を深く束縛してしまうかを、皆さんは数え切れないほどの現実を通じて確かめてこられたでしょう。

その3つの「ち」とは、まさに、民族や歴史の条件であり、文化、伝統、慣習そのものです。その3つの「ち」のままに生きることは、本来の大いなるつながりと断絶して、私たち人間が大きな不自由さを抱えてしまうことを示しています。そして、どんなに不自由でも、その限界を超えられないのが人間なのです。

しかし、その限界を超える1歩をもたらしてくれるのが、超越的な存在であるつながりの体験であり、超越的な次元の体験と言うべきものです。

それは、普段は越え出ることのできない新たな世界に生き始めることを可能にしてくれるのです。「魂の学」を学び、実践する中で、多くの人々が抱くことになる「発見」の体験やつながりの体験こそ、私たちにとっての宗教的な生き方の土台にあるものなのです。

2018.6.26

〈編集部註〉

*1 魂の学

人生を魂の次元から捉えるまなざしであり、人間の魂と世界を貫く真理=神理の体系のことを言います。形のある、目に見える世界を対象にしてきた「現象の学」に対して、形のない、見えない世界も含めた全体を扱います。
(著書『あなたが生まれてきた理由』13〜14ページより一部抜粋・要約)

*2 3つの「ち」

すべての人が例外なく抱く人生の条件のことであり、両親や家系から流れ込んでくる価値観や生き方を象徴する「血」、国や土地・地域、業界・会社等から流れ込んでくる価値観や生き方を表す「地」、そして時代から流れ込んでくる価値観や情報を示す「知」のことを指します。
(著書『運命の方程式を解く本』116ページより一部抜粋・要約)