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時の羅針盤・170

時の羅針盤・170

前進する

高橋佳子


内的成長には限りがない

風薫る5月。冬の間、静かだった生命の活動が春に開かれ、それが一気に解放されて、爆発的な成長を現す生命の季節──。きっと皆さんも、みずみずしい新緑の中で、「成長する生命」を感じていらっしゃることでしょう。

そして、私たち人間の特質を考えると、それはまさに、その「成長」ということにあります。「人間は成長する存在である」と言っても過言ではありません。

例えば、私たちが抱いている肉体──。胎内で受精した卵子の大きさは約0.1ミリ、重さは3マイクログラムと言われています。それが胎内で成長し、生まれたときは約50センチ、約3000グラムにまで成長します。さらに、日本人の平均とすれば、大人になるまでの間に、およそ160〜170センチ、50〜65キログラムにまで成長するのです。

胎内での成長は、大きさで約5000倍、重さで約10億倍に達し、さらに成人になると、それが約1万5000倍、約200億倍にまで膨れあがる計算になります。

私たちの肉体は、天文学的な成長を果たしていると言えるのです。

そして、人間を構成するもう1つの次元、精神の次元──心と魂の成長は、実はそれ以上のものがあります。

肉体の成長は、受精から始まり、新生児として生まれた後、成人になるまで続きます。そして、おおむね20代半ばには収束し、あとは少しずつ老化が始まるとされています。つまり、肉体的な成長は、20代をピーク(頂点)に止まってしまうものです。

一方、内的な成長は、どうでしょう。

それは、とどまることを知らないものです。肉体が成長を止める20代を過ぎても、心と魂は成長と進化を続けます。

目的と使命を探し求め、それを果たす人生の旅──。その歩みの中で自分自身を知り、人間と世界の関係を知り、人とのつながり、ものごとの取り組み方を学んでゆくのが人間です。「魂の学」(*1)の言葉では、それぞれに応じた「3つのパラミタ(智慧)」──「成長のパラミタ」「関わりのパラミタ」「具現のパラミタ」を身につけ、それを深めてゆくことになります。

それは、私たちが生きる以上深まり続ける歩みであり、たとえ肉体が死を迎えても成長し続けてゆくのが、私たちの本質である魂なのです。

後悔と願いのダイナミズムを生きる

では、この内的な成長と進化を推進する力、私たちを前進させる力とは、いかなるものなのでしょうか。今月は、その1つの力について触れたいと思います。

「これ以外に考えられない」と確かな目的が定まったとき、私たちは必然的に、そこに向かう力強い推進力を得ます。「どうしてもこのことを果たしたい」という願いを抱くとき、人は様々な障害を乗り越えることが可能になります。

目的や願いが研ぎ澄まされればされるほど、障害も問題も、そこに至るための条件であることが明白になってゆきます。「魂の学」において、目的・願いを確かめることが何にも増して重要なステップとなるのは、すべてはそこから生まれてくるからなのです。

もちろん、確かな目的・願いを抱いても、それがそのまま成就されるわけではありません。むしろ、私たちが抱える不足や未熟によって、また突然のアクシデントや予期せぬ条件の悪化によって、成就できないことの方が多いかもしれません。そのときは、後悔に苛まれることになるでしょう。

でも、後悔は駄目かと言えば、そうではないと思うのです。確かに、次から次に後悔が後悔を呼ぶ「後悔の輪廻」に陥ってしまうことは避けなければなりません。

しかし、後悔に値する現実に直面したら、思い切り後悔することが大切です。そして、自らの心を見とり、心と現実の関係を見つめ直す──。深い後悔を刻んだからこそ、それを新たな願いに転換するのです。

願いから後悔へ。後悔から願いへ──。後悔と願いのダイナミズムを生きることこそ、私たちを前進させる力となるのです。

2018.4.24

〈編集部註〉

*1 魂の学

人生を魂の次元から捉えるまなざしであり、人間の魂と世界を貫く真理=神理の体系のことを言います。形のある、目に見える世界を対象にしてきた「現象の学」に対して、形のない、見えない世界も含めた全体を扱います。
(著書『あなたが生まれてきた理由』13〜14ページより一部抜粋・要約)