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時の羅針盤・169

時の羅針盤・169

精神の復権へ

高橋佳子


私たちはどこに立っているか

毎年4月には、GLAは創立記念日を迎えます。それは、1年に1度、私たちが今、どこに立っているのか、どこに向かっているのかを確かめるとき──。今月は、そのことに想いを向けたいと思います。

私たちが生きているのは21世紀──。科学技術を基にして爆発的な発展を遂げた20世紀を土台として、その発展をさらに拡大、延長しようとしている時代です。

人口の増大に拍車がかかり、すでに世界の人口は70億を超えています。いくつかの地域は今なお深刻な貧困問題を抱えていますが、世界はそれだけの人口を養える食糧を生産するに至ったということでもあります。世界の貿易額も上昇を続け、物質的な豊かさは、かつてない水準を示しています。

多くの国で、モノがあふれ、次から次に新しい商品が生み出されています。それらを人々のもとに運ぶ流通の世界も、コンピューターやインターネットを中心としたIT(情報技術)社会の進展によって、劇的に変わりつつあります。

例えば、自動運転車の実現は、社会を大きく変える1つの分岐点となるものでしょう。また、昨今は、人工知能(AI)の行く末も大きな話題になっています。文章の作成や音楽の作曲など、一定の創造的領域も含め、これまで人間にしかできなかったことが、人工知能によって可能になりつつあります。多くの職業が人工知能によって取って代わられるという報告もあります。

今日、多くの人々が受け入れている科学的人間観は、究極のところ、人間の本質を遺伝子に求める物質的な人間観です。

人間という現実はすべて、遺伝子がつくり出す細胞や器官を含めた物質的な肉体によって生まれてくる。心は脳の機能に過ぎず、魂という次元は認めない……。

そうであるとすれば、人工知能をもって、人間を代替できると考えることも決して無謀な発想とは言えないのではないでしょうか。むしろ、それは必然的な帰結であるとさえ思えるのです。

言葉を換えるなら、私たちが生きている時代はそれほど、物質的な見方が優勢になってしまっている。圧倒的な物質優位の時代であるということです。

魂の復権へ──GLAがめざす場所

私たちが願うのは、その物質優位の時代を転換することです。

人類がどんなに物質的に発展したとしても、それは外側だけの発展でしかなく、本当の発展とは言えないものです。外へ外へと拡大し続けても、それに見合う内なる進化がなければ、その発展は結局歪みを生み出してしまうからです。

私たち人間に呼びかけられているのは、物質的な発展、外側の進化に見合う、内なる進化と発展を果たすこと──。それがあって、初めて世界の進化と発展は、調和と秩序を保つことができるのです。

かつて、私は「『空』があふれて『色』となる」ということをものごとの法則としてお伝えしました。それは、何ごとにおいても、私たちの内側から、本心、境地、想いがあふれて、外側の現実として結晶化してこそ、本物を生み出すことができるということです。ものごとの起点も、決定的な主導権も、私たち自身の内側、精神の次元にあるのです。

私たちが示さなければならないのは、まさにそのこと──。精神が物質を凌駕する──心と魂の勝利にほかなりません。

私たちが人間を「魂」と見る人間観を掲げるのは、まさにそのためです。人間は決して物質だけの存在ではありません。物質的な次元を超える「魂」という次元を抱いているからこそ、人間は人間として生きることができるのです。

私たちがものごとを「カオス」(*1)として受けとめるのも、快感原則を超えて「呼びかけ」を聴こう(*2)とする生き方を貫くのも、人生に目的と使命を尋ねるのも、すべて物質を超えた次元を人生に見出している証なのです。

「魂の学」(*3)のまなざしを持って人生の時を送った会員の方々の中には、末期の姿を通じて魂の力を示される方が少なくありません。

2018.03.28

〈編集部註〉
*1 カオス

「魂の学」では、物事の結果が決まる前の状態を「カオス」と呼びます。そのカオスには可能性と制約、光転因子と暗転因子が孕まれています。光転因子とは、現実を調和や発展、深化に導いてゆく要素、手がかりであり、暗転因子とは、現実を混乱や停滞、破壊に導いてしまう要素、きっかけです。私たちは、そのカオスに自らの心と行動をもって触れ、形を与えてゆきます。私たちが1度手を触れてカオスに形を与えると、元のカオスには決して戻りません。だからこそ、私たちがどんな心でカオスに触れるのかが決定的に重要になるのです。

*2 呼びかけを聴く

思わぬ事態に陥ったとき、大きな失敗をしたとき、人から責められたとき、自分の想いが通じなかったとき、何かすっきりしないモヤモヤとした気持ちが続くとき……、「魂の学」では、「この事態が呼びかけていることは何だろう」と、心の耳を澄まして、そこに届いている「声」を聴こうとします。呼びかけを聴く生き方の基本は、自分の心に向き合うことです。この事態は、私が抱えている問題を教えようとしているのだろうか、足りない要素を知らせようとしているのだろうか、自分がまだ気づいていないテーマを知らせようとしているのかもしれない、新しい段階・新しい時代に入ったことを教えているのかもしれないと考えるのです。

*3 魂の学

人生を魂の次元から捉えるまなざしであり、人間の魂と世界を貫く真理=神理の体系のことを言います。形のある、目に見える世界を対象にしてきた「現象の学」に対して、形のない、見えない世界も含めた全体を扱います。
(著書『あなたが生まれてきた理由』13〜14ページより一部抜粋・要約)