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時の羅針盤・209

時の羅針盤・209

あきらめない

高橋佳子


あきらめない生き方

この世界は忍土(にんど)(*1)。思うにままならない事態が降りかかるのは当たり前。順調に進んでいたかと思えば、突然アクシデントに見舞われたり、障害が現れたりするものです。最初からうまく事態が運ばれることは稀で、失敗やつまずきから始まることが少なくありません。

たとえ順調に走り出したとしても、トラブルに巻き込まれることは日常茶飯事。そのような中で、もし少しの立ち往生や停滞でものごとを断念してしまうとしたら、私たちの周りには失意の残骸(ざんがい)がうずたかく積み上げられることになるでしょう。

そもそも、そのような心構えでは、ものごとを成就することなど、はなから無理な話になってしまいます。

どんなことでも、ものごとを成就するには、簡単にあきらめない心が必要です。多くの場合、才能や技能よりも、やり遂げる力の方が重要であると指摘する人もいるほどです。日々、目標に向かって、黙々と全力を尽くす地道な努力を続けることができるか、不調や失敗にくじけずに挑戦の姿勢を維持できるかということです。

今月、このような「あきらめない生き方」にスポットを当てたいと思ったのは、1年の歩みも折り返し地点を過ぎ、多くの方にとって、年間の成果や目標の成就について考えることを要請される時期になったと感じるからです。

ぎりぎりまで可能性を追求する

『ゴールデンパス』の中にも書かせていただきましたが、現実の世界では、ものごとに対して、あまりにも早くあきらめて可能性を手放してしまう人が少なくありません。

新しく始めた仕事がうまくいかず、小さな失敗を重ねてしまうと、「もうダメかな」「自分には合わない」とすぐに転職を考えてしまう。新たな目標を立てて歩み始めても、思い通りにいかないことがあると、すぐに「これは難しい」と意欲が萎えてしまう。1度の失敗やわずかな不調に耐えられず、それだけでものごとを投げ出そうとしてしまう……。そうした現実が、私たちの周囲にはあふれています。でも、それでは、あまりにももったいなく残念です。

マイナスの現実や事態、ネガティブなストロークがあったとしても、事態はカオス(*2)。その中は、光闇混在。カオスである以上、制約だけではなく、可能性も存在しているのです。

たとえ眼前に乗り越えられない壁が広がっているように見えても、私たちは「そうだとしても、こうすることもできる」と取り組むことも可能です。今できることをすべてやり尽くしたうえで、「やるだけやって後は托身(たくしん)」の言葉通り、事態の可能性をぎりぎりまで追求することができるはずなのです。

「魂」に尋ねてみる

もちろん、あきらめないことが、どんな状況でも善かと言えば、そういうことではありません。時には、次に向かう決断が必要なときもあります。これまでの歩みを打ち止めにして「あきらめる」こと、断念することが、かえって新たな可能性を開く道となることもあります。

もともと「あきらめる」という言葉は、「明(あき)らむ」を語源とし、「本質を明らかに見る」という「諦観」(ていかん)と同じ意味を示す言葉です。「あきらめる」ことにも、それだけ大切な意味があるということです。

では、どのようなときに「あきらめない」で、どのような場合に「あきらめる」べきなのか。そこに決まりきった法則はありません。その見きわめが難しいのも事実です。

今、私はどうすべきなのか──。自分自身で決断したいなら、心の深奥、「魂」に尋ねてみるほかありません。心を許せる友人がいるなら、その人の言葉に耳を傾けてみることも心強い手がかりとなるでしょう。

でも、これだけは言えます。向かうべき歩みを心に決めたなら、簡単にはあきらめない。本当の意味で集中し、誠心誠意、全力を込めて日々を送ってみる。完全燃焼を果たすように、自分が決めた期間内をむらなく取り組むことができているなら、それはまだ向かい続けるときでしょう。けれども、もし完全燃焼を終えたと感じたら、次なる選択を考えるときなのかもしれません。

そこまで取り組んだら、たとえあきらめることになっても、あなたの未来にとって、必ず有意義なステップとなるはずです。

2021.07.22

〈編集部註〉

*1 忍土

「自分の思い通りになどめったに事は運ばれず、現実は、いつも試練や理不尽さと背中合わせです。/この世は天国ではないという事実──。それを私は、『この世は忍土である』と、仏教の言葉を使って表現してきました。/『忍土』とは文字通り、心の上に刃を乗せて生きる場所、堪え忍ばなければならない場所を指すものです。その忍土に生きることは、つらいこと、堪え難いことを受けとめなければならないということなのです」
(著書『あなたが生まれてきた理由』58ページより引用)

*2 カオス

カオスとは、まだ何の形も輪郭もなく、結果も結論も出ていない、様々な可能性と制約、光と闇を内に秘めた混沌とした状態を指します。もともとギリシア神話の原初神カオスが、その言葉の由来です。カオスは、宇宙開闢の直前、すべての光と闇、無であると同時に一切の可能性を秘めたものと言える状態なのです。そして、カオスということは、「マルかバツか」を超える生き方を必然的に導きます。
(著書『最高の人生のつくり方』167ページより一部抜粋・要約)