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時の羅針盤・208

時の羅針盤・208

組み替える

高橋佳子


無力ではない

昨年来、私たちがコロナ禍に翻弄(ほんろう)されてきたように、私たちの日常は、世界の大きなしくみの中にあります。巨大な世界に比べれば、1人の人間の力など、取るに足らないもの。「大海に対する一滴の水に過ぎない」と多くの人は感じています。「そんな1人が何をしようと、巨大な世界の前では無力に等しい──」。そう思われている方は、少なくないでしょう。

しかし、それは、事実とは言えません。

私たちの内なる世界と外なる世界の関係は、不思議なものです。私たちがどんなに悩んでいても、世相は移り変わり、時は流れてゆきます。そこには、何のつながりもないように思えます。

でも、内側に明るい希望が輝いていれば、外側の世界も明るく輝き、重い気分を抱えていれば、外側の世界も暗い影を落とします。逆に、外側の世界がコロナ禍によって暗転の度合いを深めれば、私たちの心も光を失い、外側の世界が光転すれば、私たちの心にも希望の光があふれるようになります。

つまり、多くの人々が実感している以上に、内と外の世界は相互に影響し合い、そればかりか分かちがたく結びついて一体になって動いていると言えるのです。そして、それこそ、私たちが世界に対して無力ではないと言える根拠なのです。

世界を変える力

たとえば、人生の中で苦境に陥り、もうどうすることもできないような現実に直面することがあります。その人にとって、目の前の現実は、どうすることもできない岩盤のような、動かない現実です。

けれども、私たちはいかんともしがたい現実に対しても、「そうだとしても、こうすることもできる」と新たな行動を起こすことができます。どんな行き止まり、閉塞(へいそく)状況に見えても、何らかの新たな選択肢と行動をもたらすことができるのが人間です。

そのとき、岩盤のように頑(かたく)なだったはずの現実が、私たちの内側の捉え方によって、流動するものに変貌(へんぼう)するのです。

また、私たちの人生にしばしば降りかかってくる試練の現実──。私たちに過度な負担や重荷をもたらす問題が訪れたとき、私たちはしばしばその圧迫に呑まれて、身動きが取れなくなってしまいます。

しかし、そのような試練を、新たな挑戦の機会と受けとめるとき、圧迫や苦痛だけをもたらしていた試練の現実が、未来の希望を指し示す扉に姿を変える──。私たちは、世界を変える力を持ち得るのです。

これらは、いったいどういうことなのでしょうか。

「魂の学」(*1)においては、あらゆる事態はカオスです。カオスとは、まだ結果も結論も出ていない、形も輪郭もない混沌(こんとん)とした状態。つまり、どれほど岩盤のように堅固で動かないように見えても、それは一種の思い込みや先入観に過ぎず、事実はまだ構造も輪郭も決まっていない柔らかな状態だということなのです。

思い込みや先入観を離れ、リフレームして、ものごとをカオスの状態に戻すとき、その混沌とした状態に孕(はら)まれている光と闇の因子、可能性と制約に改めてアクセスすることができるようになります。

そこには、挫折や失敗に終わる道だけではなく、青写真(*2)にアクセスする道も隠れています。事態からの呼びかけを聴く(*3)ことによって、そのカオスに孕まれている新たな秩序、秘められた青写真への道を進めることができるのです。

組み替える力を育てる

絶望的な行き止まりにしか見えない状況も、苦難と苦痛しかもたらさないと思える試練も、私たちが事態を受けとめ直し、組み替えることによって、そこに新たな現実、そして新たな世界が姿を現します。

ここで触れた、事態を捉え直す力とは、リフレームする力とも言うべきものです。リフレームとは、ものごとの枠組みを一度外して、もう一度捉え直し、組み替えることです。

「魂の学」を学び、実践することは、まさにこの、事態をリフレームする力──そこに託された青写真にアクセスし、枠組みを組み替える力を育む歩みです。一年の歩みが半ばを過ぎて停滞することもあるでしょう。今月はぜひ、このリフレームする力、組み替える力に心を向けてみてはいかがでしょうか。

2021.06.25

〈編集部註〉

*1 魂の学

「魂の学」とは、見える次元と見えない次元を1つにつないで人間の生き方を求めてゆく理論と実践の体系です。物質的な次元を扱う科学を代表とする「現象の学」に対して、物質的な次元と、それを超える、見えない「心」と「魂」の次元も合わせて包括的に扱おうとするのが「魂の学」です。それは、私自身の人間の探究と多くの方々の人生の歩みから見出された法則であり、「魂・心・現実」に対する全体的なまなざしによって、人間を見つめ、あらゆるものごとに応えてゆくことを願うものです。
(ご著書『最高の人生のつくり方』50ページより引用)

*2 青写真

青写真とは、もともと建築や機械の設計図のことです。そこから転じて、ものごとの設計図、未来図を指すようになりました。私たちが実現することを求め、願っている現実の姿──。「魂の学」では、さらに、ものごとに秘められたイデア(理想形)、大いなる存在・神との約束という意味が込められています。
(ご著書『ゴールデンパス』136ページより引用)

*3 呼びかけを聴く

思わぬ事態に陥ったとき、大きな失敗をしたとき、人から責められたとき、自分の想いが通じなかったとき、何かすっきりしないモヤモヤとした気持ちが続くとき……、「魂の学」では、「この事態が呼びかけていることは何だろう」と、心の耳を澄まして、そこに届いている「声」を聴こうとします。呼びかけを聴く生き方の基本は、自分の心に向き合うことです。この事態は、私が抱えている問題を教えようとしているのだろうか、足りない要素を知らせようとしているのだろうか、自分がまだ気づいていないテーマを知らせようとしているのかもしれない、新しい段階・新しい時代に入ったことを教えているのかもしれないと考えるのです。