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時の羅針盤・206

時の羅針盤・206

打ち続ける

高橋佳子


長い時をかけて

私たち人間は、今を生きる存在です。

毎瞬間、新たに生まれる世界の現実に応えながら、自らの願いを求め、魂の使命を果たそうと人生を歩んでいます。人生の核心は、いつでも、まさにその新たに生まれる瞬間をどう生きるかにあるのです。

そして、この今という瞬間に、私たちは、長い時をかけて臨んでいます。私たち人間が生きるということは、外界と内界のエネルギー交流を果たすということです。今を生きるには、私たちの内側にある心と魂がはたらくことが不可欠です。その心のはたらきは、一朝一夕に形成されたものではありません。私たちが生まれ落ちてから物心がつくまで、何年もの歳月をかけて、私たちは自分の心の傾向を形づくってきたのです。

両親や家族から、生まれ育った地域や身を置く業界から、そして生きている時代から、様々なものの見方や考え方、生き方を吸収して、私たちは最初の自分になってゆきます。それは、生まれ育ちの中で、1つの傾向、特徴ある歪みを抱える心を持つことでもあります。

そして、心の土台にある魂も、それぞれ独自の歪みを抱いています。その魂の歪みは、さらに長い時間──人生を超える幾転生もの時をかけて形づくられてきたものです。

長い時をかけてつくられてきた心と魂、それらが抱える歪みによって、私たち自身の本当の可能性は、残念ながら多くの場合、まだ現れているとは言えません。歪みを抱えているがゆえに、私たちは、魂の力を正しく引き出すことができないからです。

もし、私たちが自分自身の可能性を生きることを願い、魂の力を発揮してゆくことを思うなら、心の偏りを正し、魂の歪みを修正してゆくことは必須の歩みになります。何よりもその歩みを一歩一歩積み重ねることによってしか果たされないのです。

心の傾きや魂の歪みは、長い時をかけてつくられてきたものです。それを修正し、そこから解き放たれるには、同様に長い時間が必要となるのです。新しい心の使い方を1日、また1日試し、馴染ませてゆき、意識することもない自然な流れにしてゆく──。それは、心と魂への神理による連打と言えるものです。

打ち続ける

美術工芸品としても世界的に認められている日本刀は、鎌倉時代後期から江戸時代にかけて、その質的な頂点を迎えたとされています。多くの刀工によって生み出された、正宗や村正をはじめとする名刀には、現代でも解明できない技法があります。

日本刀をつくる土台は、たたら吹きという製鉄法です。良質の砂鉄を材料として炉で溶かすときに鞴(ふいご)(「たたら」とも言う)を使ったことが、その名前の由来です。そうしてできた玉鋼(たまはがね)をさらに熱し、刀工が鎚(つち)で何度も叩いてはその中に含まれる不純物を追い出し、純度を高めてゆきます。さらには、焼き入れによってより硬くなった皮金としなやかな刃金を合わせて鍛造することによって、硬質かつしなやかで強靱(きょうじん)な刀が形成され、日本刀はできあがります。

皆さんも、刃物をつくる鍛冶職人が鋼を熱し、それを台の上で何度も叩きながら形を整えてゆく映像をご覧になったことがあるでしょう。日本刀をつくる刀工は、完成までの間に、数えきれないほどの打撃を加えて鍛造してゆくと言われています。

刀工は、一打一打に想いを込めて、目の前の鋼に魂を込め続ける。その繰り返される打撃によって、「折れず、曲がらず、よく切れる」刀となってゆくのです。

それは、私たちの心の鍛錬、魂の鍛錬にも通じるものではないでしょうか。不足する心の筋肉を鍛錬し、新たな受発色(じゅはつしき)(*1)の仕方、心の使い方を練習する──。その毎日毎日の繰り返し、積み重ねが、新たな心をつくり、魂を鍛えるのです。

4月25日から始まった「ゴールデンパス『一日一葉』特別セミナー」は、まさにその実践です。2カ月の間、私たちは、袋とじになった1日1枚のページを切り開き、そこにある様々な問いに取り組みながら、拙著『ゴールデンパス』に記された生き方を習得する歩みを積み重ねてゆきます。

その1日1日の歩みは、神理に則った生き方と心の使い方への入魂の一打です。それを何度も繰り返すことによって、新たに学ぶ神理(しんり)の生き方と心の使い方が、私たちの内側に深く浸透してゆくのです。

2021.04.27

〈編集部註〉

*1 受発色

「受」とは、私たちが現実(外界)に生じた出来事を心(内界)に受けとめる受信のことで、「発」は、受信を受けて外界に関わってゆく発信のこと。「色」は仏教の言葉で、目に見える現実──人のことも含めて事件や出来事、外界のことを言います。人間は、生きている限り、この「受発色」のトライアングル(三角形)を回し続け、たとえ無自覚であったとしても現実を生み出し続けているのです。
(『神理の言葉2012』66~67ページより一部抜粋・要約)