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時の羅針盤・204

時の羅針盤・204

実践する

高橋佳子


理の力を引き出すには

かつて天動説が正しいと信じられていた頃、地動説への疑義は、たとえば、次のような意見に代表されるものでした。

なぜ、空を飛んでいる鳥は地球の運動に取り残されないのか、なぜ、まっすぐ上に投げた石は地球の運動の影響を受けずに元の位置に落ちてくるのか。それこそ、地球が動いていない証である──。

今日、科学の法則を知っている人ならば、「それは重力の法則、慣性の法則がはたらいているからであって、動いていない証ではない」と、その疑義を打ち砕くでしょう。走っている電車の中で真上にジャンプしても、そのまま元の位置に着地するのと同じです。

昔の人々はそのように理解することはできなくても、今日と同じように一貫するそれらの法則の下に生活し、人生を営んでいたのです。

つまり、私たち人間は、地球にはたらいている法則が実際にどのように私たちに関わり、どのような影響を与えているかを知らなくても、その法則の恩恵を享受することができるということです。

けれども、その法則、理(ことわり)を知ることができれば、その恩恵をより深く、確かなものとして受けとめることができるようになります。

私たちの世界にはたらいている法則は、目に見えるものではありません。科学は、その見えない理を紐解くことによって、理の力を目に見える形にし、人間から揺るぎない信頼を勝ち得たと言えます。

しかし、科学だけが、見えない理の力を引き出すものであるかと言えば、そうではありません。

見えない「理の力」

宇宙・自然の摂理、人生の法則──。

「魂の学」(*1)には、その見えない理、法則が多数含まれ、私たちの理解できる形で示されています。その神理の体系は、あらゆる摂理、理に通じるもので、特に、私たち人間が永遠の生命を抱く魂の存在として、その目的と使命を果たすために整えられたものです。

たとえば、「3つの『ち』の法則」は、永遠の生命を抱く魂の存在としての私たちの人生について考えるとき、もっとも基本的・根幹的な神理と言ってもよいものです。私たち人間は魂としての光と闇の本質──魂願(*2)とカルマ(*3)を抱きながらも、両親からの影響(血)、地域や業界からの影響(地)、時代からの影響(知)という3つの「ち」の条件によって、自らの心をつくり、生き方をつくりあげてゆきます。

その影響を知り、その条件を本当に相対化できたとき、その人は、魂としての人生を創造できる力を手にしたと言っても過言ではありません。

この神理は、どのような人々にとっても、重要なものです。

しかし、初めて聞く人にとって、この理の真の力を理解することは困難でしょう。多くの人は、「3つの『ち』? 人生の条件、なるほど」ぐらいで終わってしまうのではないでしょうか。

神理の力を本当に見出すには、ただ知識として知るだけでは困難です。実際に、その神理を生きて初めて、神理の力は私たちの前に姿を現すからです。

実践だけが遍在する理の力を証す

つまり、神理の力を本当の意味で明らかにするには、自らがそれを実践してみなければならないということです。

毎日の生活の中で、具体的なテーマの下で、現実の人間関係の間で、神理実践を重ねる──。

3つの「ち」の法則ならば、自らも含め、私たち人間がその条件によって生きる力を得る一方で、同時にその条件にいかに縛られ、多くの不自由を囲っているのか、その実感が深まるほど、3つの「ち」の感覚から自由になって、その奥にある魂の感覚によって大切なものを見出すことができるようになるのです。

それこそ、いかなる国に生まれようと、すべての人間に一貫する「3つの『ち』の法則」の力を目に見える形で証し、それによって魂としての生き方を引き出す歩みとなるのです。

今月はぜひ、神理を実践することの言葉にならない大切さを、一緒にかみしめるときとしたいと思います。実践だけが神理の真価を私たちに明らかにしてくれることを忘れないでいただきたいのです。

2021.02.21

〈編集部註〉

*1 魂の学

「魂の学」とは、見える次元と見えない次元を1つにつないで人間の生き方を求めてゆく理論と実践の体系です。物質的な次元を扱う科学を代表とする「現象の学」に対して、物質的な次元と、それを超える、見えない「心」と「魂」の次元も合わせて包括的に扱おうとするのが「魂の学」です。それは、私自身の人間の探究と多くの方々の人生の歩みから見出された法則であり、「魂・心・現実」に対する全体的なまなざしによって、人間を見つめ、あらゆるものごとに応えてゆくことを願うものです。
(著書『最高の人生のつくり方』50ページより引用)

*2 魂願

その魂がどうしても果たしたいと願っている魂の願いであり、光のエネルギー。それは、「智慧持つ意志のエネルギー」である魂が秘めている意志であり、魂の本体と言ってよいもの。
(著書『運命の方程式を解く本』144ページより引用)

*3 カルマ

その魂の歪み、未熟、弱点であり、魂願を生きることを阻む力。
(著書『運命の方程式を解く本』65ページより引用)