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時の羅針盤・203

時の羅針盤・203

試練の時代を生き抜く

高橋佳子


人生の逆説

新年が明けてすぐ、首都圏をはじめ、11都府県に2度目の緊急事態宣言が発出され、人々の生活にも制約が加わり、また多くの事業者や店舗が営業上の困難を抱えることになりました。

今年2021年も、コロナ禍の勢いはとどまることなく、私たちは引き続き、その影響に翻弄されることを覚悟しなければなりません。

このような事態の中では、誰もが思うにままならない現実に振り回され、多くの苦難に直面することになります。

人は誰でも、苦よりも快を求めます。痛みよりも喜びの方が望ましいと感じ、できることなら、つらく厳しい時間よりも、楽しくうれしいときを過ごしたいと願うものです。人として生まれたなら、そうした感覚や願望はごく自然のことと言えるでしょう。

しかし、私たち人間がどんなに望もうとも、順境や喜び、うれしさや楽しさの中にいるだけでは、得られないものもあります。そこにいるだけでは、人生の醍醐味を味わうことはできないのです。

なぜなら、人間やその人生が本当に深まり、進化するのは、多くの場合、快や喜びのときではなく、苦や痛みの中にあるときだからです。

苦や痛みの中にあるとき、私たちはそれまでの生き方を繰り返すことができなくなります。新しい生き方、より本質的な生き方、新たな解決と創造をもたらす生き方を探すことを呼びかけられるのです。

できれば、目の前に現れてほしくない、避けたい現実──。そのような望まざるときにこそ、人間と人生は成長・進化を果たし、特別な輝きを放つ──。何という逆説でしょうか。

つまり、人間が求めてやまない快や喜び、楽しみ、うれしさの中だけでは、人は本来の人生を生きることはできないということなのです。

人生=X×Y

私たちの人生には、様々なことが起こります。端的に言うならば、楽しいこと、うれしいこと、得をすること=Xと、苦しいこと、悲しいこと、損をすること=Yが入り乱れて、私たちの前に立ち現れるのが人生です。

先にも触れたように、人は、誰でもXがやってくることはウェルカムで、Yがやってくることはできれば勘弁してほしいと感じがちです。Xの数が多いほど、Yの数が少ないほど、その人生は幸せで、逆に、Xの数が少なく、Yの数が多いほど不幸せであると考えてしまいます。

言うならば、「Xはマル、Yはバツ」という感覚で無意識に生きてしまっているのが、多くの人々ではないでしょうか。

しかし、それは、本当なのでしょうか。

どんなにXを引き寄せたくても、どれほどYを遠ざけたくても、人生では、XとYを自分の思い通りに取捨選択することはできません。

そもそも、Xだけの人生も、Yだけの人生もあり得ないものです。

私たちの人生は、XとYがそろって初めて、人生となるのです。

人生は、XとYのかけ算によってつくられる──。「人生=X×Y」というのが、変わることのない法則なのです。

そして、私たち自身と人生の成長・進化をもたらすのが苦や試練のときということは、人生のYこそが、実は私たちの人生の核心にあるということなのではないでしょうか。

人生のYへの向き合い方が、私たちの人生の深度を決め、人生の次元を確定してしまうのです。

試練の時代を生き抜く

人生の逆説に目を開き、「人生=X×Y」の法則に目覚めた人は、「Xはマル、Yはバツ」という感度で生きているときとは異なる感度で人生を生き始めます。

あらゆる事態に呼びかけを聴こうと耳を傾け、困難の中から新たな生き方、新たな解決と創造のヒントを探し出そうとします。難しい状況の中で、新しい取り組みや挑戦に向かおうとするようになるのです。

試練の中だからこそ、私たちはこれまでにはない生き方に誘われていることを確かにキャッチし、それに応えようとします。私たちは今、まさに試練の時代を生き抜く力を手にし始めているのです。

2021.01.26