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時の羅針盤・180

時の羅針盤・180

共に生きる

高橋佳子


「孤独」という21世紀問題

昨年1月、EU離脱問題で揺れる英国のメイ首相が、「孤独担当大臣のポストを新設した」というニュースが世界を駆け巡りました。世界で初めて創設されたそのポストは、英国社会で「孤独」に陥り、困窮している人々のための総合的な政策を実行することが責務です。

英国では、「孤独」が肉体的精神的な健康を損なわせ、年間320億ポンド(約4.9兆円)相当の損失を国家経済に与えていると言われています。

調査によると、人口6500万人のうち900万人以上の人々が孤独を感じ、65歳以上の高齢者のうち360万人がテレビが主な友だちという状態。そして、月に1度も他の人と会話をしない高齢者は20万人で、週に1度も会話がないということなら36万人にも上ると言います。さらに、身体障がい者の4人に1人は日常的に孤独を感じ、18〜34歳の世代なら何と3分の1以上、子を持つ親の4分の1も常に孤独を感じているというのです。

米国でも、連邦政府公衆衛生局の元長官が2017年に米誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』に論文を発表し、こう指摘しました。

「孤独は伝染する病。テクノロジーでもっとも人とつながっている時代なのに、孤独は1980年代の2倍になった。米国の大人の4割以上が孤独を感じている」

もちろん、わが国も他人事ではありません。OECD(経済協力開発機構)諸国21カ国のうち、「友人や同僚と過ごす時間があまりない」と答えた男性の割合は日本がもっとも大きく、女性もメキシコに次いで2位。日本は、世界でもっとも孤独な国とも言えるということです。さらに、結婚をしない人々の増加によって、今後、孤独問題は一層深刻になると指摘されているのです。

こうした先進国の状況の背景には、社会のあり方の大きな変化があります。かつて身分制度や地縁・血縁に束縛されてきた人生が、その束縛を解かれ、個々人に解放されることになりました。自分の仕事も、結婚も、それぞれの自由意思によって、選択できることになったのです。その自由と引き換えに失われていったのが、これまでのコミュニティーの秩序──。そこにあった旧来のつながりは、希薄になってしまったのです。

今日のデジタル社会の浸透は、その流れを一層強めています。生活の多くの場面で、人々は、直接人と触れ合わなくても生きてゆける術を得てしまっています。「孤独」問題は、新たな21世紀問題とも言うべきテーマになっているということでしょう。

孤立しない生き方のために──共に生きる

そしてだからこそ、私たちは、「共に生きる」ということを新たに想い、特別に大切にしてゆきたいと思うのです。私たちの集いがその成り立ちから求めているのも、「共に生きる」ということです。

人は誰でも、ひとりで生まれてきます。そして、人生を終える瞬間も、ひとりで旅立たなければなりません。「ひとり」であることは、人生の基本と言っても過言ではありません。

でも、その2つの「ひとり」をつなぐ人生の時は、一貫してひとりだけで生きることはできません。否、実は、ひとりで生まれ、ひとりで死んでゆく、絶対的な「ひとり」の瞬間も、何の助けもなく成り立つわけではないのです。

それらは、他の存在に支えられ、誰かに見守られていることで成り立つもの──。両親がいなければ誕生はなく、ひとりの死でさえ、そこに誰もいなくても、見えない次元の存在に確かに見守られているのです。

GLA共同体の基にあるのは、その張り巡らされたつながりです。

人間としての本来の生き方を共に求め、自らの可能性を引き出す道を共に歩む同志としてのつながりです。言葉を換えるなら、本当の自らを求め、他を愛し、世界の調和に貢献しようとする菩提心のつながり、菩提心を抱く魂のつながりです。その志と願いのつながりをもって、私たちは、より強固に共に生きる存在となるのです。

孤独を引き出し、増幅する世界不信・人間不信もまた、心を発見し育む、この道の中で、どれほど癒やされてきたことでしょう。

あらゆる違いを生み出す3つの「ち」(*1)を超え、心を開いて人間の王道を歩む生き方──。それは、すべての人を「ようこそ」と迎え、友人として共に歩むことのできる大きな土台なのです。

2019.2.23

〈編集部註〉

*1 3つの「ち」

私たちが身を置く場所──それが地域であれ、職場であれ、業界であれ、そこには暗黙の前提、常識、価値観、そして生き方があります。そこで生きていれば、知らず知らずにその場の空気に深く染まってゆきます。それを私は、人間がその人生で必ず引き受けることになる3つの「ち」(血・地・知)と呼んできました。「血」は、両親や家族から流れ込む価値観や生き方。「地」は、地域や業界から流れ込む慣習や前提。そして、「知」は、時代・社会から流れ込む常識や知識、価値観。
(著書『最高の人生のつくり方』76ページより引用)