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時の羅針盤・231

時の羅針盤・231

内圧を高める

高橋佳子


外力に翻弄される人生

私たちの人生は、どれ1つ例外なく、外側の力に脅(おびや)かされているものです。どんな人も、その人生の途上では、予期せぬ問題に遭遇し、突然の試練に見舞われ、ときに自らの人生を見失いかねないのです。

それだけではありません。私たちは大きな外力、外圧を受けるとき、自らの心のはたらきを正しく保つことが困難になります。

まず、あるがままの現実を受けとめることができなくなってしまいます。ものごとを受けとめる最初の受信、認識に歪(ゆが)みが生じてしまうからです。たとえば、ものごとを悪い方に悪い方に考えがちの人は、外圧の下では、その傾向が助長されます。ますます悪い方向に考えてしまうのです。

認識に歪みが生じれば、その後の判断はどうでしょう。正しい判断も、よい結果をもたらす行動もできるはずがありません。その結果、行動も、その歪みを引きずってしまいます。

そもそも、外圧に屈して、行動自体をすぐに変えてしまう人もいます。その状態は、外側の世界に翻弄(ほんろう)され、支配されていると言っても過言ではありません。

私たちは、外側の力次第で、一喜一憂を繰り返し、快苦のアップダウンを続けてしまいます。

一見、それは何でもないことのように見えるかもしれません。多くの人がそうなっているからです。しかし、外側の世界に振り回されている状態では、私たちは自らの人生を本当の意味で創造することはできないのです。

外圧に負けない内圧を保つ

水中で受ける水圧は、想像を超えるほど大きなものであることが知られています。たとえば、深度100メートルの海中では、人体の表面積の3分の2に当たる1平方メートルに100トンもの圧力が加わるのです。通常ならビクともしないドラム缶も、中が空気であれば、そこでは紙風船のようにペチャンコに潰れてしまいます。

深度数十メートルの海に潜行するダイバーたちがその水圧に耐えられるのは、身体の内側の圧力が外側からの圧力と同等に高められているからです。内側の力と外側の力が拮抗(きっこう)することで、ダイバーの身体は問題を抱えることなく、ミッションを果たすことができるのです。

そしてそれは、常に外圧にさらされる私たちにも通じることなのではないでしょうか。

常に外圧に脅かされている私たちに必要なのは、その外圧に屈することのない内圧を保つことです。内圧とは、外から私たちを抑え込もうとする力に対して、私たちの内側から外側へと世界を押し返す力、内側の秩序を保とうとする力です。

何が内圧を高めるのか──青写真を求める

内圧を引き上げたり、新たな内圧を生み出したりするとはどういうことでしょうか。それは、私たちが強い想いを抱くということです。

そして、それを可能にする代表的なものが、私たちの中に宿る「願い」と言えるでしょう。「ここにこういうものがあったら、どんなにいいだろう」「この事態をこう変えたい」「ここにこんな現実を生み出したい」「どうしても新たな現実を導きたい」「よりよき現実に1歩でも近づきたい」……。そのような「願い」を強く抱くことが内圧を高めるのです。

この「願い」とは、私たちの個人的な願望や思いつきの願望というわけではありません。「今、どうしてもこの現実が必要だ」と感じる強い必然深度や使命感を伴うものです。

言葉を換えるなら、1つ1つの事態や状況に託された青写真を常に求める想いこそ、私たちの内圧を高め続けるものです。

「青写真」とは、ものごとが本来あるべき形、理想形、イデアのことです。ものごとには、必ず、青写真が託されています。その青写真に何とかアクセスし、それを実現させようとする──。この心の動きが、外圧に対する内圧を生み出し、それを高めるのです。

常日頃、様々な外圧にさらされている私たちです。外側から私たちに圧迫を与えてくる力を感じたとき、私たち自身の内圧のことを考えてみましょう。その外側の力に対して、私たちはそれを迎え撃つ内圧を抱いているか、そのことを点検していただきたいのです。

2023.6.1