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時の羅針盤・194

時の羅針盤・194

菩提心で歩む

高橋佳子


かつてない試練の本質

世界中を不安と混乱に陥れている新型コロナウイルス──。今月も、この現実について、皆さんと一緒にもう少し考えてみたいと思います。

新型コロナウイルス問題は、心と行動の受発色(じゅはつしき、*1)問題。そして、コロナウイルス問題は、カオス(*2)──。私たちはそう受けとめ、カオス発想術に基づいて、この事態に向き合ってきました。新型コロナウイルスの感染の現実をあるがままに見つめることを土台として、「5つの対策」──現在の「5つの行い・3つの戒め」(*3)に取り組んできました。

新型コロナウイルス感染の対応のむずかしさ──。それは、これまでの医療的な常識が当てはまらないということにあります。このような場合はこうする、こうすればこうなる──。そうした定石や常識が通用しない現実なのです。

例えば、感染後の症状の多様性があります。

誰でも、風邪を引いて、熱が出てひどい咳で苦しくなれば、風邪であることを自覚します。周囲にうつさないように注意もするでしょう。もし、このウイルスに感染したら、必ず相当な症状が出るということなら、それに対する治療も可能でしょう。

しかし、新型コロナウイルスは、感染しても、人によって症状が現れるまでにかなり長い潜伏期間が生じる場合があるばかりか、ごく軽微な症状や無症状で終わる人も少なくありません。しかも、ごく軽微な症状や無症状な段階の人たちでも、感染源になってしまうのです。

人類の制御神話の崩壊

症状が出ない人たちがどうすれば診察を受け、自分が感染していることを知ることができるでしょうか。

そして、そのような無症状の人たちが、少数とも言えません。3割から4割の無症状の人がいるという報告もあれば、最近の調査では、PCR検査で陽性反応のあった人のうち、何と約8割もの人たちが無症状だったという報告もあります。

つまり、そうした無自覚な感染源の人たちが自らの状態を知らずに感染を拡大してしまうのが、今回の新型コロナウイルス感染の実態だということです。

感染している人が誰かもわからないまま感染が広がり、人々が病院に押し寄せ、ベッドが埋め尽くされて、医療崩壊が現実になってしまう──。

人間は、「因果の法則」を突き詰めて、様々な事象を押さえ込み、コントロールする術を磨いてきました。

もちろん、限界はありますが、そのやり方は大きな成果を積み上げ、多くのことをコントロールすることが可能になったのです。

しかし、今回のウイルスは、そうした人間のコントロールの壁を容易にすり抜けて、感染の現実を増幅しています。

長い歴史を通じて、自然や様々な事象をコントロールしてきた人間の「制御神話」が、根底から脅かされていると言っても過言ではないのです。

菩提心を呼びかけている

今、私たちに必要なこと──。

それは、誰もがいつ感染源となるかもしれないことを前提に、さらに自分が感染しているかもしれないことを前提に、他の人たちを思いやってマスクを着け、衛生的習慣を励行し、外出を控える。外出する場合も、社会的距離を保って接触の抑制を行うことです。

快苦に大きく影響されながら、思い通りに生きてきた人たちにとって、それは非常に困難な課題です。自分が思うままに行動することを当然のように積み重ねてきた人が、自分の「したい、したくない」を横に置き、周囲の人たちや社会全体のことを慮って、それを最優先に行動する──。

そこに必要なのは、世界をあるがままに見つめる智慧と菩提心(ぼだいしん、*4)にほかなりません。この新型コロナウイルス・カオスは、私たち人間に「内なる智慧と菩提心を呼び覚ませ」と呼びかけているのです。

私たち1人ひとりがどれほど自発的に、共に生きる人々と世界のために行動することができるか、未来はその力にかかっています。

2020.04.24

〈編集部註〉

*1 受発色

「受」とは、私たちが現実(外界)に生じた出来事を心(内界)に受けとめる受信のことで、「発」は、受信を受けて外界に関わってゆく発信のこと。「色」は仏教の言葉で、目に見える現実──人のことも含めて事件や出来事、外界のことを言います。人間は、生きている限り、この「受発色」のトライアングル(三角形)を回し続け、たとえ無自覚であったとしても現実を生み出し続けているのです。
(『神理の言葉2012』66〜67ページより一部抜粋・要約)

*2 カオス

カオスとは、まだ何の形も輪郭もなく、結果も結論も出ていない、様々な可能性と制約、光と闇を内に秘めた混沌とした状態を指します。もともとギリシア神話の原初神カオスが、その言葉の由来です。カオスは、宇宙開闢の直前、すべての光と闇、無であると同時に一切の可能性を秘めたものと言える状態なのです。そして、カオスということは、「マルかバツか」を超える生き方を必然的に導きます。
(ご著書『最高の人生のつくり方』167ページより一部抜粋・要約)

*3 5つの行い・3つの戒め

新型コロナウイルスの性質、さらにそこから呼びかけられていることを踏まえ、私たち1人ひとりが取り組むべき神理実践として高橋先生が示されているのが、「5つの行い」と「3つの戒め」です。「5つの行い」は、①手洗い、②マスク、③換気、④検温、⑤喉を潤すこと、そして「3つの戒め」は、「密閉・密集・密接」という3つの「密」を避けて行動することです。
(本誌84〜89ページ「新型コロナウイルスはカオス──『私が変わります』で迎え撃つ[改訂版]」より一部抜粋・要約)

*4 菩提心

もともと仏教で「菩提=悟りを求める心」のことを指す言葉ですが、「魂の学」では、「本当の自らを求め、他を愛し、世界の調和に貢献する心」のことを言います。
(ご著書『12の菩提心』4ページより一部抜粋・要約)