時の羅針盤・246
時の羅針盤・246
集中する
高橋佳子
秋という季節
まだ酷暑は続いていますが、暦の上では、今月はもう秋の季節になっています。
秋について、皆さんは、どのような印象をもたれているでしょうか。
秋は、厳しい暑さが和らぎ、過ごしやすく、心地よい気候となる季節であり、赤や橙(だいだい)、黄色に染まった木々が美しい景色をつくり出す紅葉の季節──。それは、多くの人々が実感していることです。
自然が生み出す宝石のような美しい景色を愛でるために、多くの人々がお目当ての場所に旅するのも、この季節の特徴でしょう。
さらに、農作物の収穫が行われるのも、秋という季節です。農業を営む人々が丹念に世話をしてきた稲などの作物が多くの実を実らせ、農作物として刈り入れられる特別なときを迎えるのです。
収穫に向かうのは、農作物だけではありません。
陽光の季節を通じて、関心を外に広げ、外界に意識の重心を置いていた人々は、「読書の秋」という言葉があるように、秋を迎えると、その重心を少しずつ内側に引き入れてゆくようになります。そして、少しずつ夜の時間が長くなり、喧噪(けんそう)に満ちた昼間とは異なる時間が流れるようになります。その静寂の中で、私たちは、ものごとを深く耕すことに誘われるのです。
もちろん、それが秋という季節の専売特許ではないことは、言うまでもありません。他の季節にあっても、私たちは、ものごとに正面から向き合い、それを深めてゆくことができます。
ただ、秋という季節には、私たちにそのような歩みを促し、はたらきかけるところがあるということなのです。
集中の季節
多くの人々にとって、人生の時間を使って取り組んでいる仕事や研究を一層深め、さらなる成果をもたらす季節──。そのことを今月の呼びかけとして受けとめてみてはいかがでしょうか。
その呼びかけは、意識を外から内側に移すこと以上に、もてるエネルギーを1つの焦点に注いでゆくことと言えるでしょう。
ものごとを深めてゆく歩み──。様々な事象に対して分散していたエネルギーを、意識して注目する1つのテーマに集中させてゆく。これまで取り組んできたものごとをより深く、持続的に、集中的に探求してゆく──。今月をそのような機会として受けとめたいと思うのです。
まず、私たちは、自ら自身の現在について、見つめてみる必要があるでしょう。
今日のビジネスの世界では、1度にいくつもの仕事に応えることを要請されることが普通です。それに家庭生活、友人との関係もあれば、そこからの要請も加わります。
私たちは、いくつものことがらに意識を分散させることを迫られていると言っても過言ではありません。そのようなマルチタスクに応えることは、今日においては日常的な課題と言えます。
しかし、それは一方で、根本的な問題を引き起こす原因にもなるのです。
集中すべきことに集中する
多くの要請があることは、多くの「すべきこと」を抱えている状態と言えます。そのとき、私たちは本当に必要なことに応えることを忘れがちになってしまうのです。
大切なものがありすぎるとき、私たちがその核心を容易に見失ってしまうのと同様です。
それでは、どんなに忙しく、たくさんのことに応えているつもりでも、本末転倒の生き方になってしまうことになるでしょう。
そして、だからこそ、多くの要請に応えながらも、私たちは、本当にすべきこと、本当に必要なことをいつも見極めていなければなりません。大切なものを数多く生み出してしまう現代生活の中で、その核心を見失うことなく、つかんでいることは、何よりも肝要なことです。
それができるから、今、集中すべきことに意識を向けることが可能になるのです。
集中すべきことに集中する。私たちが収れんすべきことに収れんしてゆく歩み──。そのことにこそ、向かってゆきたいと思うのです。
2024.8.26