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時の羅針盤・243

時の羅針盤・243

自分を広げる

高橋佳子


固定の枠をあてがう人間

「かつて『私』は空(くう)を住処(すみか)とし 境を持たず 流れる理(ことわり)のままに
相対の世界に 固定の枠(わく)をあてがうことなく
智慧の現われをこそ 自らの身体(からだ)となしていた」

『生命の余白に』の「人間の諸相」の初めに記させていただいたのは、私たちの魂の本質です。私たちの魂は、森羅万象(しんらばんしょう)につながり、どんな可能性にも通じるものなのです。

しかし、この世界に生まれ落ちることによって、人は、その魂の本質とはまったく異なる生き方を始めることになります。「これは、良いこと、悪いこと」「これは、価値があること、ないこと」「これなら、まだ何とかなる。こうなったら、もうおしまい」と、まさに相対の世界に固定の枠をあてがい、あらゆるところに限界を抱えることになります。

自分自身のことも「自分はこういう人間」「これは得意だけれど、これは苦手」「人との関わり方はこうする」……等々、性格から、能力、ものごとの捉え方、人間関係のつくり方まで、あらゆることがらについて、私たちは自分としての生き方を示すことができるようになります。でも、同時に、その捉え方や生き方は、縛りとなり、限界と化してしまうのです。私たちは、自分では気づかない間に、数え切れない限界を自らつくり出してしまうということです。

違う場所・違う生き方を選んでみる

それは、逆に言えば、私たちは自分が抱いている可能性を押し込めてしまっているということでもあります。

私たちがそれぞれ抱いている潜在力を生かし切れていないと言うこともできます。1人ひとりにはもっと可能性があり、それまでの人生では発揮できていない力が眠っているのです。

そして、だからこそ、私たちは、自分が気づかずにあてがってきた「枠」をはみ出してみる必要があるのです。

いつもなら、左の選択をしている状況で、あえて右の選択の可能性を真剣に考えてみる。いつもなら、同僚の一言に反応してしまう自分を抑えて、あえて受け流してみる。いつもなら、一歩引いてしまうところで、積極的に手を挙げて挑戦してみる。自分の願望を実現しようと常に努力している人なら、周囲の人たちが願っていることの助けになってみようとする──。つまり、いつもとは違う場所、違う生き方を選んでみるのです。

もちろん、現実的な選択は、切実なものです。おいそれと、いつもとは違う選択ができないこともあるでしょう。

それなら、ライフスタイルを変えてみることは、いかがでしょうか。いつもなら、零時過ぎに就寝し、朝7時に起きるところを、少し早めに休んで朝4時に起きてみる。普段、半径2キロの範囲で生活しているなら、それを半径5キロまで広げてみる──。それだけで、いつも見えていた現実や世界が違って見えるのではないでしょうか。

そして、そこから、人との関わり方を変えてみる、新たにしてみることも大きなことです。周囲の人々に抱いている印象を横に置いて、新鮮な気持ちで出会ってみる。相手が願っていることや、その人が人生の中で引き受けてきた条件を想い、「なぜ今自分はこの方と出会っているのだろうか」と考えてみる──。それだけで、その人との関わり方に、何か違いが生まれてくるのではないでしょうか。

自分を広げる

大切なことは、私たちには、自分が知らない力が眠っているということです。私たちには、誰にもそれぞれの潜在力がある──。それを引き出そうという試みは、楽しみでしかありません。

つまり、それは、自分を広げてみるということです。

私たちが生まれ育ちの中で、ほとんど意識することもなくつくってしまった固定の枠、自分自身への制約や限界──。それを少しずつ広げてみるなら、実は、私たちがもっとできることがある。受けとめられることがある──。そのことが明らかになります。

今の自分ではなく、深奥(しんおう)に眠る「もう1人の自分」を信じて、内側に隠れている可能性を引き出してみようではありませんか。

自分の心を広げ、行動を広げてみる──。その一歩は、必ずあなたの新しい未来をつくることになるのです。

2024.6.1