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時の羅針盤・189

時の羅針盤・189

内なる秩序を保つ

高橋佳子


1年の歩みを振り返る

今年も、師走を迎えることとなりました。

皆さんにとって、今年1年の歩みはいかがだったでしょうか。数え切れない出会いと出来事を与えてくれた2019年──。今月は、ぜひ、それぞれの1年の歩みを振り返るときとしていただければと思います。

そして、できるならば、「魂の学」(*1)を学び実践してきた日々が何を変え、何をもたらしてくれたのか、考えてみてはいかがでしょうか。

私たちは、忙しい毎日の繰り返しの中で、つい立ち止まることを忘れがちになります。きっとあなた自身も、1年の歩みを振り返ることで、その歩みによってもたらされたものを見出すことになるでしょう。

「魂の学」を学び実践する歩みを始めたばかりの方なら、自分の現実が以前より見えるようになったという方も少なくないでしょう。

以前は、その時々の要請に応えることで精いっぱいで、自分が何をどう感じ、どう考え、どう行動したのか、それによってどんな現実がもたらされたのかがわからなかったが、今ではそれを見つめることができる──。

また、自分の心の傾向を知ることができたという方もいるでしょう。「煩悩地図」(*2)を手がかりに、人生の中でつくってきた心の傾向、その可能性と制約を知り、自分が繰り返してきた行動がわかるようになった。以前は自分を振り回していた感情を、少しずつコントロールすることができるようになったという方もいるかもしれません。

あるいは、人間関係が少しずつ変わってきたという方、さらには問題を解決できた、新たな現実を生み出すことができたという方もいるはずです。

そして、もし、あなたが心の秩序、内なる秩序が以前よりも確かになってきたと感じられるなら、それは、もっとも大きな果報の1つだと私には思えるのです。

現実は厳しい、しかし……

私たちが人生を営む世界は、崩壊(*3)と不随(*4)の定が支配する場所です。何もしなければ、ものごとは古び、錆びつき、壊れ、消耗せざるを得ません。その中に生きている私たちにとって、現実は厳しいものです。

私たちが願うことはかなわず、事態は思うにままならない。そして、どんなに努力しても、その努力が報われるとは限りません。

もっとも基本的な家族関係で問題を抱えることも、まれではありません。そうなってしまえば、人生全体に大きな歪みが生じてしまいます。また、学校時代の友人関係も、社会に出てからの職場の人間関係も、順調であり続けるのはまれなことです。

現実的に生活を営むには、そのための糧を得なければならず、それは、ときに大きな重荷になります。

現実世界を生きることは、まさに容易ならざることなのです。

けれども、その中で、私たちの心がそれらのすべての条件を受けとめ、それに応える力を育てていたら──。

誤った信念を抱え込まず、快苦の振動に呑み込まれずに、あらゆる事態を正しく受けとめ、最善の道へと導く内なる秩序を整えることができるなら、それは、何にも勝る力を得たことを意味するでしょう。心に正しい構造が生まれれば、正しい流れが生まれます。それこそ、私たちにとって、自らの人生を輝かせる確かな道にほかなりません。

内なる秩序を確かにするもの

内なる秩序を整える──。それは、言葉で言うほど容易なことではありません。まず、「そうしよう」と思ってできるものではないからです。内なる秩序の安定は、結果、果報としてもたらされるものです。

そのためには、何よりも整った内なる秩序に日々触れることが大きな力になります。「魂の学」の人間観、世界観に日常的に接すること。とりわけその現実に触れること。同じ志を持つ善友(*5)の存在が、それを与えてくれるでしょう。多くの実践のモデルに触れながら、自ら様々な現実を前にして、心の力をどのように使うのか、それを日々、試み、確かめ、振り返る歩みを通じて心の秩序が整えられてゆきます。

善友の存在がつくる場の中で、研鑽と実践が深まるほどに、その秩序は強度と深度を備え、揺るぎないものになってゆくのです。

2019.11.21

〈編集部註〉

*1 魂の学

「魂の学」とは、見える次元と見えない次元を1つにつないで人間の生き方を求めてゆく理論と実践の体系です。物質的な次元を扱う科学を代表とする「現象の学」に対して、物質的な次元と、それを超える、見えない「心」と「魂」の次元も合わせて包括的に扱おうとするのが「魂の学」です。それは、私自身の人間の探究と多くの方々の人生の歩みから見出された法則であり、「魂・心・現実」に対する全体的なまなざしによって、人間を見つめ、あらゆるものごとに応えてゆくことを願うものです。
(ご著書『最高の人生のつくり方』50ページより引用)

*2 煩悩地図

「煩悩」とは、もともと仏教の言葉で、人々の心身を煩わし、悩ませる一切の妄念のことを指します。「煩悩地図」では、人生を暗転させる「4つの煩悩」の傾向として捉えます。「4つの煩悩」とは、人間の「怒り」や「不満」に象徴される「苦・暴流(被害者)」の傾向、人間の中にある「怠惰」や人に対する盲目的な「依存心」に象徴される「快・衰退(幸福者)」の傾向、「恐怖」や「否定的想念」に象徴される「苦・衰退(卑下者)」の傾向、そして「欲望」や人に対する「支配」に象徴される「快・暴流(自信家)」の傾向のことです。
(ご著書『運命の方程式を解く本』105〜107ページより一部抜粋・要約)

*3 崩壊の定

「崩壊の定」とは、仏教が「諸行無常」という言葉で示し、科学が熱力学の第2法則「エントロピー増大の法則」として示した無秩序化の法則です(エントロピーとは、煩雑さ、無秩序を表す物理量のこと)。私たちの世界では、あらゆるものごとが無秩序に向かい、そのままでは決して逆の秩序に向かうことはないのです。
(ご著書『1億総自己ベストの時代』150ページより引用)

*4 不随の定

不随とは、思い通りにならないこと──。「不随の定」は、すべてのものは複雑な関係の中にあり、私たちの思い通りにはならないことを教えるものです。仏教においては、「諸法無我」という言葉で示される法則です。
(ご著書『1億総自己ベストの時代』150ページより引用)

*5 善友

仏教の祖師釈尊が「善友」の意義を問う弟子に対して、「善き友を得るとは、道のすべてにもあたることだ」と、その重要性を強調されたのが、その原点です。私たちにとっては、「魂の学」に基づいて、互いに縁となって成長進化を果たし、それぞれの使命に応えることを願う友人、仲間こそが、「善友」であると言えるでしょう。
(月刊『G.』2019年4月号「時の羅針盤181」6ページより引用)